Recherche

NEWS

F.ワルラン氏 & 大塚哲也氏 & 池田正太 – 対談

パリ国立オペラ座管弦楽団でテューバ奏者を務め、パリ国立高等音楽院で若手奏者の育成を手掛けるファビアン・ワルラン氏。東京フィルハーモニー交響楽団でテューバ奏者を務め、東邦音楽大学および武蔵野音楽大学で若手奏者の育成を手掛ける大塚哲也氏。フランスと日本で活躍するテューバ奏者2名と、ビュッフェ・クランポン・ジャパンでテューバを担当する技術者の池田正太が、日仏のテューバ演奏やワルラン氏の愛奏する〈メルトン・マイネル・ウェストン〉Fテューバ“2250FW TITAN2”について、対談しました。(取材:今泉晃一)
 

芸術家というのは単なる演奏者以上のものでなければならない

 
  ワルランさんと大塚さんはどのようなつながりなのでしょうか。
 
大塚(敬称略) 実は初めてお会いしたのは一昨日のことです。ただテューバの世界はそれほど大きいものではないので、以前からSNSでは友人になっていました。今回来日されて、マスタークラスで初めて顔を合わせたのですが、彼の活動のメインであるオーケストラでの演奏と教えるということは、僕とも共通するものがあり、すぐに仲良くなってビールを飲みに行きました(笑)。
 
  バックグラウンドから考えるに、演奏スタイルは大塚さんとはかなり違うように思うのですが、そのあたりどのような印象でしたか。
 
大塚 僕自身はアメリカで勉強してきましたが、今回ワルランさんの演奏を聴いて実感したのは、フランスのプレーヤーとしての誇りを持ちつつも、世界中のいいものを熱心に取り入れているなということでした。「フランスだからこういうスタイル」ということに固執するのではなく、シンプルに音楽家として素晴らしいと感じました。
 
写真左から、ファビアン・ワルラン氏、大塚哲也氏
 
ワルラン そう感じていただいたのはとても嬉しいですね。今回日本に来て楽器のデモンストレーションやマスタークラスをさせていただいたのですが、日本に来るたび感心することは、テューバ奏者だけでなくあらゆる音楽家が好奇心いっぱいの目で、「もっとよいものを」と求める姿勢があることです。フランスでもアメリカでも、演奏者たちは質の違う素敵なものを持っていて、それぞれがベストだと思ってやっていますので、それらをシェアし合うことは大事だと思います。
 
  ワルランさんは、教育者としてはどのようなお考えですか。
 
ワルラン 教育者の立場としては、自分が学んできたものを伝えるだけでなく、それに自らが経験し、培ってきたものを加えて、若い人たちに伝えていくことがとても大事だと思います。
 例えば管楽器は口を使う楽器ですが、アーティキュレーションにしてもフレージングにしても音色にしても、そこには言語の影響が必ずあります。私の場合はフランス語を話しますが、フランスのスタイルというものはやはりフランス語の影響を受けているものです。そういうことも、共通の知識として分かち合うことが大切だと感じています。
 
  フランス語の影響を受ける「フランス的なもの」は、どういうものでしょうか。
 
ワルラン 色彩感やフレージング、そして繊細さでしょうか。そういう部分が、世界中の人々から「フランス的なもの」として興味を引くところだと思っています。私のリサイタルを聴いた人からは、「まるでホルンのようだった」という感想を聞くことがあります。クリアで明るい音色だからそう感じられるわけです。
 でも、さきほど大塚さんがお話しくださったように、私はアメリカの先生にもたくさん習っていますので、当然その影響はあります。フランス的なものが土台にはありますが、自分ではインターナショナルのものもかなり取り入れていると思っているのです。
 
写真左から、ファビアン・ワルラン氏、大塚哲也氏
 
  今回のマスタークラスで、日本の若いテューバ奏者からどんな印象を受けましたか。
 
ワルラン とても厳格に一生懸命練習して、正確に演奏するというイメージがあります。安定した演奏、クリーンな演奏を求める傾向がありますが、これは文化の影響もあります。もっと目を広げれば中国や韓国などのアジアの国々もそれぞれ異なる文化的背景を持っていて、それをテューバの演奏の中に感じることがあります。
 例えば、フランスはとても美しい国です。街並みや自然も美しいところがたくさんあるし、ファッションも素敵だし、人々は人生を楽しむことに非常に長けていますが、メトロ(地下鉄)は汚いです(笑)。それこそが「フランス的」で、美しいところがたくさんあっても、すべてがきちんと整っているわけではない。一方で日本はどこに行ってもきれいに片付いていますし、いろいろなことがきちんとオーガナイズされています。
 
 それがテューバ演奏にも現れていて、日本の若い人たちの演奏はクリーンなのですが、もう一歩踏み込んで「美の追求」まで行っていない場合が多い。私は、「テューバ奏者は単なるプレーヤーではなく、芸術家でなければならない」と思っています。
 私はたまたまテューバの音色が大好きでテューバという楽器を選びましたが、芸術家というのは単なる演奏者以上のものでなければならないと思っています。「美」の世界はもっともっとエモーショナルなものなのです。これは日本に限らず世界中の奏者たちに言っていることです。
 
大塚 まさにおっしゃる通りだと思います。
 
写真左から、ファビアン・ワルラン氏、大塚哲也氏
 

“2250”をベースに“2250FW TITAN2”を開発

 
  さて今回、ワルランさんが開発に携わったメルトン・マイネル・ウェストン(以下、MW)の“2250FW TITAN2”というF管テューバをお持ちになったわけですが、この楽器の開発の経緯を教えてください。
 
ワルラン きっかけは10年前のことです。パリ国立歌劇場でワーグナーの《ニーベルングの指環》の《ワルキューレ》と《ジークフリート》を演奏することになり、それまでC管を吹いていたのですが、やはりドイツものを演奏するためにはB♭管だろうと思ってMWに相談に行きました。試奏した結果、“197/2 Original”の音がまさに求めていたもので、ワーグナーはそれで吹くことにしました。今は、“197/2”をサイズダウンした“97/2”という楽器も使っています。
 
 B♭管を選んでいるときにMWから「パリ国立歌劇場で演奏するなら、フランスで開発した楽器を使っては?」と言われたんです。それまでF管で自分が満足できる楽器に出会ったことがなかったので、共同で新しいF管を開発することにしました。ドイツのMWの工房に足を運び、技術者の方に相談に乗ってもらいながら、1年かけてテストと改良を重ねて作り上げたのが、この“2250FW TITAN2”です。バランスがよく本当に気に入った楽器になったので、オーケストラや金管五重奏など様々なシーンで、9年間使い続けています。型番を見ればわかるように、新しく開発したと言ってもゼロから始めたわけではなく、レギュラーモデルである“2250”を基本としています。
 
ファビアン・ワルラン氏の愛用する“2250FW TITAN2”
 
大塚 メルトン・マイネル・ウェストンのF管テューバはどちらかと言うとロータリーが主流で、ピストンを選ぼうと思うと、選択肢があまり多くありません。しかしロータリーのFテューバの音が欲しい場合と、ピストンのFテューバの音が欲しい場合が当然あるので、ピストンの場合は自然と“2250”を選ぶことになり、実際にこのモデルは多くの人に使われています。
 
池田 “2250”はMWの歴史の中で、それまでの流れとは全く違う新しいデザインを採用した楽器です。以前のF管は現在の“SENI”に見られるような細身のタイプだったのですが、より太くしっかりとしたものになりました。鳴りムラのない、温かい音色と安定した低音が特徴で、そこにF管ならではの機動性も持ち合わせている楽器です。
 MWのF管のピストンにはワーレン・デックさんが開発に関わった“45SLP”や、メルビン・カルバートソンさんの“46SLP”などもあり、その“46SLP”が“TITAN1”と呼ばれる楽器ですが、どちらもアメリカンテイストで、“2250”とはデザインが異なります。
 
  “2250FW”はどのような楽器にしたかったのですか。
 
ワルラン 元の2250はとてもいい楽器ですが、もっと音が客席に飛んでいくようなものにしたいと思いました。それから、より抵抗感が欲しかったのです。私は体全体を使って吹くタイプなのですが、音色の変化はもちろん、ppから限りなく大きなffまで非常に広いダイナミクスの幅を欲しています。そのためには楽器に抵抗感が必要なのです。
 結果として、バランスがよく、安定していて、音がよく飛ぶ楽器、そしてダイナミクスの幅を出すための抵抗感のある楽器になりました。今では私の「ベストパートナー」と言えますし、いろいろな人の思いや技術が込められていて、単なる楽器を超えた存在だと思っています。
 
 こういう楽器を作るためには、メルトン・マイネル・ウェストンのように長い歴史の中で培われたたくさんのノウハウを持っていることが必須です。一番難しかったのは、技術と芸術性を擦り合わせなければならないことでした。つまり、アーティストが欲しいものをどう技術に落とし込むか、技術者がアーティストの言うことをいかに理解して作っていくかということです。そのためにお互いを理解しながら、柔軟に考える必要がありました。でも最後には技術者たちの「何とかして実現する」というあきらめない気持ち、つまり情熱によって完成したのです。
 
写真左から池田正太、ファビアン・ワルラン氏、大塚哲也氏
 

新しいレパートリーにも十分対応できる、新世代のFテューバ

 
  具体的には、ベースとなった2250と比べてどのようなところが違うのでしょうか。
 
池田 実は私もまだきちんと調べていないのですが、見てすぐわかるのは支柱の数がかなり多いことですね。
 
ワルラン 支柱に関しては、1本ずつ音を確かめながら、最適な位置を探りました。それから、ボトム部分の当て金が一般的なテューバに比べて長くなっています。これも抵抗感を増すためです。
 また、オリジナルの“2250”ではフローティングタイプとなっているマウスパイプが、ベルに直付けになっています。フローティングにするとフレキシブルさが増しますが、音の飛びは少し弱くなってしまうからです。ベルは小さいけれども厚みを増やして重くしています。
 
 これらは、私の個人的な好みが強く反映されています。私が頭の中に描いている最高の音とアーティキュレーションを出すことができる楽器なのです。だから誰にとっても完璧な楽器かというと、そうではありません。あくまで、私にとってベストな楽器ということです。
 とはいえ、私自身がパリの歌劇場で演奏し、金管五重奏で演奏し、ソロで演奏し、そしてパリ国立高等音楽院で教えているという経験からできている楽器なので、新しいレパートリーにも十分対応できる、新世代のFテューバと言うこともできると思います。
 
写真左からファビアン・ワルラン氏、大塚哲也氏
 
  ところで、“TITAN2(タイタン2)”という名前はどうして付けたのですか。
 
ワルラン 私の師匠であるメルビン・カルバートソンの開発した楽器“TITAN”にあやかって名付けました。彼は私にとって音楽の世界の父親のような存在なんです。ベルに描かれているエンブレムも同じものを使っているのですよ! これは先生のお弟子さんの1人が書いたもので、“TITAN2”が完成したときに先生は亡くなっていたのですが、奥様に電話して話したら、快く使用を許可してくれました。これは、私がカルバートソン先生から受け継いだものを、次の世代に託していくという意味も込められているのです。
 
ファビアン・ワルラン氏の愛用する“2250FW TITAN2”。ワルラン氏が師事したメルビン・カルバートソン氏の“TITAN”と同じエンブレムがベルに描かれている。
 
  大塚さんに、“2250FW”を吹いていただいてもいいですか?
 
ワルラン もちろんですよ! 普段はどんな楽器を使っているのですか。
 
大塚 “MW4260 Tradition”です。
 
ワルラン ああ、私もその楽器は持っていますよ。ロータリーの音が欲しいときはそちらを使っています。
 
(試奏)
 
大塚 抵抗感を増したという割に、吹いてみるときつい感じではないですね。音のセンターがしっかりしているという印象です。このセッティングは、私も好きですね。
 
大塚哲也氏
 
池田 楽器のスペックとかセッティングを見るととてもタフな感じなのですが、ワルランさんの演奏を聴いても、今大塚さんが吹いた音を聴いても、不自然な感じが全くなく、ものすごくいいバランスで作られていることがわかりますね。
 
ワルラン 先ほどもお話ししたように、オーケストラの中で吹くときには、全体を圧倒するような大きな音から、繊細な音をかき消さないような小さな音まで出さないといけませんから、楽器にもそれだけのキャパシティが必要になるのです。
 
大塚 実際に吹いてみて、オーケストラで使えるように作ったという言葉には納得がいきます。
 
ワルラン 金管五重奏で吹く場合にも、緩急を付けたり、深みのある音から軽やかで明るい音まで出すことが可能です。トランペットと合わせるとき、トロンボーンと合わせるときそれぞれで音色を変えられるのです。他のメンバーもみんな、この楽器を気に入ってくれました。
 
大塚 それだけ入念にバランスを取ったのでしょうね。現状で日本では未発売ということですが、ぜひ導入してほしいものです。
 
大塚哲也氏
 
  さて、ワルランさんは今もメルトン・マイネル・ウェストンとの協力関係にあるそうですが、現在進めているプロジェクトで、何か教えていただけるものはありますか。
 
ワルラン 具体的なことは話せませんが、若い人のための楽器を作りたいと考えています。弦楽器は分数ヴァイオリンのように、小さな子でも弾きやすいように成長に合わせたサイズが用意されているのですが、テューバにはそれがありません。だから7歳とか8歳の女の子がテューバを吹きたいと思っても、楽器が大きくてとても吹けないのです。そこで、体の小さな子でも、早い時期から親しめるような、そんなF管テューバを作りたいと考えています。
 
  ありがとうございました。
 
写真左から、池田正太、ファビアン・ワルラン氏
 

Retour en Haut
Your product has been added to the Shopping Cart Go to cart Continue shopping