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クリストフ・ジグラー氏インタビュー

 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団でテューバ奏者として活躍するクリストフ・ジグラー氏に、ご愛用中の楽器や、2020年11月のウィーンフィル来日について、書面インタビューにて伺いました。(2020年11月、東京にて)

民族音楽を愛する両親のもと、2歳から吹いていたテューバ

  テューバを始めたきっかけを教えてください。

ジグラー(敬称略) 私が生まれた家庭には、プロの音楽家はいませんでした。しかし、両親が民俗音楽を好んで演奏していたので、実家にはたくさんの楽器がありました。その多くは金管楽器で、ヘリコン(注:ウィーンで開発された低音の金管楽器)が10本近く、テナーホルン、バリトン、トランペット、フリューゲルホルンがそれぞれ数本、そのほかにダイアトニック・アコーディオンなどの鍵盤楽器もありました。
 楽器がたくさんありましたので、自宅で金管バンドを結成することもできました。そこで私は子供の頃から、様々な楽器に触れてきました。テューバは2歳から吹いています。すぐに大好きになりました!それが今も続いています。

  テューバはどのように学ばれたのでしょうか。

ジグラー 10歳の頃、故郷のシュタイアーマルクで 民俗音楽のセミナーに行きました。私はどうしてもテューバを習いたいと思っていました。このセミナーでの一週間、音楽漬けの日々を過ごし、「もっと吹きたい!」と強く思いました。それがきっかけで音楽学校に入学し、素晴らしい先生がたのもとで、テューバとダイアトニック・アコーディオンを習い、クラシック音楽の世界を知る機会に恵まれました。「一度でもいいから、オーケストラで多くの人と演奏したい!」 それが私の夢になりました。
 数年後、私はクラシックテューバと民俗音楽を学ぶために、グラーツのヨハン・ヨーゼフ・フックス音楽院に移りました。そこでは、ダイアトニック・アコーディオン、ダルシマー(注:ピアノの前身と言われるヨーロッパの打弦楽器)、ツィター(注:オーストリアなどでよく使用される弦楽器)、そしてもちろんテューバを学びました。テューバの先生はグラーツ歌劇場のテューバ奏者、エーリッヒ・ベンドル氏で、私はすぐにリヒャルト・ワーグナーが大好きになりました。もちろんテューバが最高に活躍するからです!
 後にリンツに移り、アントン・ブルックナー大学でヴィルフリート・ブランドシュテッター氏に師事しました。師はオールラウンドな音楽家で、私が幅広い様式の音楽を演奏できるようになったのは、師の指導のおかげです。何でも演奏できることは、音楽家として大変重要なことです。
 その後、2008年にウィーンに移り、ウィーン国立歌劇場とウィーン・フィルハーモニー管弦楽団に入団しました。

愛用のテューバ“MW4260”とその魅力

  今回の来日ツアーではどのような楽器を演奏されていますか。

ジグラー B♭管とF管を演奏しています。ツアーで使用しているB♭テューバは、100年以上前に製造されたボヘミアのテューバを改良した楽器です。Fテューバは〈メルトン・マイネル・ウェストン〉の“MW4260”(トラディション/2021年以降発売予定)です。B♭テューバに関しては、〈メルトン・マイネル・ウェストン〉の“195”(ファフナー)も持っています。“195”はクリアで伝統的な音色を奏でる素晴らしい楽器で、とても気に入っています!

  なぜ〈メルトン・マイネル・ウェストン〉を選んだのですか。

ジグラー 伝統と進歩を融合させた〈メルトン・マイネル・ウェストン〉の楽器は、最高の音楽を奏でるためにベストなパラメータを備えているからです。

  今回演奏されている“MW4260”の楽器のどのような点を評価されていますか。

ジグラー Fテューバ“MW4260”を初めて試した時、すぐに私に一番合う機種だと分かりました。大きすぎず小さすぎず、ちょうどよいサイズだからです。
 そして、3つの重要な点に気がつきました。トランジェントのコントロールとサステイン、イントネーションにおいて、“MW4260”が非常に優れているということです。

 トランジェントとはどのようなものなのでしょうか。

ジグラー トランジェントとは、音が立ち上がる時の短い打楽器的な音のことです。この振動は、音の始まりを正確にする上でとても重要で、楽器を明確に特徴付ける要素でもあります。トランジェントをコントロールすることによって、オーケストラの中で楽器の音を際立たせたり、音を混ぜ合わせたりすることが可能です。より多くのアタックを作れば音がよりクリアで、近くで響いているように感じられ、よりソフトなトランジェントを作れば音が他の楽器と溶け合い、遠くで響いているように感じられます。この“MW4260”は非常にバランスが良く、トランジェントのコントロールが容易です。
 そのため、“MW4260”はオーケストラ奏者だけでなく、ソリストにも適しています。これはシートメタルでつくられていることにも関係があります。これこそが〈メルトン・マイネル・ウェストン〉のクオリティーです。

  サステインについても教えてください。

ジグラー 音の始まりの部分はトランジェントと呼ばれ、それ以外の部分は何と呼ばれているのでしょうか?トランジェントやアタックの後に保持されている音の余韻を、サステインと呼びます。サステインは楽器のスケールと関係しており、自然な音色の連なりを内包しています。サステインを多めに作ると、音が柔らかく、親密な感じになったり、遠くで響くような音になったり、ふくよかな感じになったりと、様々な可能性があります。サステインには、マウスピースも影響します。マウスピースはイコライザー(注:音質の補正や音作りのために、音声信号の周波数特性を変更する音響機器)のようなもので、特定の周波数を上げたり下げたりすることができます。これはオーケストラの相互作用にとって非常に重要です。
 “MW4260”のサステインは素晴らしいものです。

  イントネーションも評価されましたね。

ジグラー “MW4260”は美しい倍音を持っているので、イントネーションをうまくコントロールすることができます。コントロールするためには、常に注意して、耳を鍛えなければなりません。私はいつも「最初に聴いてから吹く」という練習を、毎日繰り返しています。

  ウィーンフィルで演奏するために、何か特別なカスタマイズをされていますか。

ジグラー 私はバルブシステムが異なる2種類の“MW4260”を持っていて、1台はウィンナー・テューバの右3+左3。もう1台は右5+左1のノーマルモデルで、旅行用にベルの取り外しが可能です。
 ウィーン式バルブシステム右3+左3は、リヒャルト・シュトラウスの「サロメ」や「ばらの騎士」のオペラでよく使います。シュトラウスは6バルブのテューバのためにウィンナー・テューバの作品を書きました。深みのある、半音階のパッセージを吹くことが多いので、このような楽器があれば完璧です。
 2台目の楽器は右5+左1バルブのシステムで、デタッチャブルベルのモデルです。これは旅先では、移動に大変便利です。 ねじ込み用のリングが加わることで、音の立ち上がりや余韻が、さらに良くなりました。これは私にとって最高のFテューバだと思います。私はこの楽器を、クラシックからモダン、ジャズ、民俗音楽、即興まで、幅広いジャンルの演奏で使用しています。
 編成に関しても、オーケストラ、管楽器のアンサンブル、クラリネットとのデュオ、弦楽四重奏など、様々な編成で演奏しています。このテューバ1台で多種多様な音楽を奏でられることに、とても満足しています。

  あなたにとって“MW4260”は何を意味しますか。

ジグラー “MW4260”を演奏することで、より良い音楽を生み出せるようになりました。これが一番大切なことです。このテューバは私にとって音楽を奏でるための最も重要な拡声器と言えるでしょう。そして、私の演奏が、たくさんの感動をもたらすことを願っています。
 聴衆のみなさんの感動が伝わってきた時には、私も幸せな気持ちで舞台を降りることができます。

日本のみなさんへ

  今回の来日ツアーに関して、メッセージをお願いします。

ジグラー 今回の「隔離ツアー in Japan 2020」は私にとって大きな贈り物でした。長く沈黙していたこの時期にツアーをさせていただいたことにとても感謝しています。日本でのコンサートは私にとって、とても感動的で素晴らしいものでした。ありがとうございました!
 この世界のすべての音楽家が、また自由に演奏できるようになる日が一日も早く来ることを願っています。

素晴らしい演奏を、ありがとうございました!

BnS MS14
2020年11月のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団来日ツアー中の写真。左から、ヴォルフガング・シュトラッサー氏、マーク・ガール氏、クリストフ・ジグラー氏、ディートマル・キューブルベック氏。ツアー中、トロンボーンセクションの3名が〈B&S〉、ジグラー氏が〈メルトン・マイネル・ウェストン〉の楽器を演奏した。

※ ジグラー氏が使用している楽器の紹介ページは下記をご覧ください。

195 “ファフナー” (日本語サイト)
4260 “トラディション” (英語サイト/日本では2021年以降発売予定)

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