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イベントレポート vol.01

ウィーンフィルハーモニー交響楽団の首席テューバ奏者パウル・ハルヴァックス氏による公開マスタークラス&ミニコンサートのイベントを、東京フィルハーモニー交響楽団テューバ奏者の大塚哲也氏にレポートしていただきました。(2023年12月)
 
 
 毎年秋に催されている、「ウィーン・フィルハーモニーウィーク イン ジャパン」で来日中のパウル・ハルヴァックス氏(以降PH)を迎えて、江東区文化センターにてマスタークラス&ミニコンサートが行われました。
 
 ウィーンフィルの今回の来日は、R.シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」が演目にあった事もあり、PHとクリストフ・ジグラー氏(彼もマイネルアーティスト)のメンバー2名で来日していました。来日中の忙しい日程を2人でうまく分担してこなしていたのでしょう。
 
 今回の会場となった江東区文化センターは、東陽町にあるビュッフェ・クランポン・ジャパンから歩いてすぐの立地で、まるで同社に併設されたホールのよう。当日は平日の午後にも関わらず、50名を超える観客が集まりました。ぐずついていた天気も、開演時刻には良い天気に。
 
 

ミニコンサート

 
 会はまずミニコンサートから始まりました。特別仕様の“4260 Tradition ”を携えての登場です。
 
江東区文化センター レクホールの会場
 
 PHの楽器は大きめのベル、右手に4バルブと1番トリガー、左手に5・6バルブと2番トリガーの特別仕様で、美しいゴールドラッカーが施されておりました。
 
パウル・ハルバックス氏が構える特別仕様の“4260 Tradition
 
 ピアニストの大川香織さんとともに演奏されたのは、
 
・R.V.ウイリアムズのテューバ協奏曲より(1楽章、2楽章)
・A.プログの3つの小品
・T.マドセンのソナタより (1楽章、2楽章)
 
の3作品。長身のしっかりとした体から、まるでオペラ歌手のような美しいサウンドが醸し出されていました。
 
 PHの演奏は、オーソドックスで奇を衒わない王道の音楽づくりの中に、絶妙なバランス感覚でしっかりと個性も織り込む、とても説得力のある演奏でした。音楽家として着実的確に経験を重ねてきた人にしかできない演奏です。世界的なオーケストラに所属し、素晴らしい音楽家からきっと多くの影響を受けているのだろうなと感じました。
 
パウル・ハルヴァックス氏
 
 興味深いお話と共に30分程度のミニコンサートが終わると、続いてマスタークラスに入りました。通訳はテューバ奏者の石坂浩毅さん。
 
 受講生は中堅プレイヤーとして活躍している、上森菜未さんと若林毅さんの2名が受講しました。
 
 

マスタークラス1.上森菜未さん

 
 上森さんはヒンデミットのソナタを演奏。
 
写真左から大川香織氏、上森菜未氏
 
 PHは、演奏技術へのアドバイスだけでなく、楽曲をどのように捉えるか、いくつかのアイディアを示してくれました。
 
・重工業が発達し大きな戦争を経た時代を生きたヒンデミットが、大戦直後に書いた曲だということを今一度考えてみて。大きい工場の機械が動いているようなイメージや、戦車がやってくるような怖いイメージなど。
 
 また後期ロマンからの大きな流れの中で、新古典主義に辿り着いた作曲家という事を踏まえると、フーガなどの伝統的な手法で作られているところが浮き上がってくる。ピアノパートにも多くのアイディアがあるので、ピアニストと共にいろいろ研究してみて(たくさんの要求をピアニストに対しても発していたのが印象的でした)。
 
・3楽章のカデンツァにおいては、楽譜に書かれていることを大切にするのはもちろんだが、その中に奏者自身のエモーションも入れ込まなければ、完成した表現にはならない。
 
写真左からパウル・ハルヴァックス氏、上森菜未氏
 
 ちなみに、ヒンデミットはウイーン・フィル初来日公演(1956、テューバ・ソナタの書かれた翌年!)の時の指揮者だったそうで、ウイーン・フィルとのゆかりもとても深く、思い入れのある作曲家だそうです。
 
 

マスタークラス2.若林毅さん

 
 2人目は若林毅さん。先ほどご本人も演奏した、R.V.ウイリアムスのテューバ協奏曲を演奏。
 
 音楽面のアドバイスとしては、
 
(1楽章)
・楽譜に指定されているメトロノームの速度指示よりも、AllegroやModeratoなどの発想記号に思いを馳せてみて。
・スタッカートは「短く」だけではなくて、「離す」イメージで。
 
(2楽章)
・音楽で大切なことは、物語を語ること。この曲からどんな情景が思い浮かぶかい?(ここでソリストだけでなく、ピアニストにも意見を求める。その後の演奏がガラッと変わった!)
 
写真左から大川香織氏、若林毅氏
 
 若林さんに対しては技術面な側面からのアプローチも。アドバイスとしては、息(エアー)の事について入念にアプローチしていたのが印象的でした。
 
・まずたっぷりとブレスを取って。
・強弱とエアーの関係をもっと強く意識して(→目の前の紙を息で吹き飛ばさせる。同じことをバズィングでも。)
・トランペットのマウスピースで練習して、高音域の感覚を掴んでみるのも良いアプローチなのでは(PHはトランペットのマウスピースを持ち歩いているそう)。
 

写真左からパウル・ハルヴァックス氏、若林毅氏
 
 ここでソロ曲を離れ、ワーグナーの「ニュルンベルグのマイスタージンガー」やストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」の一節(オーケストラスタディ)を若林さんに演奏するように指示(いきなりそれをやってのける若林さん、すごい!)。
 
・正しい息の流れを確実に身につけるために、まずレガートから練習することをやってみよう。
・アクセントやスフォルツァンドなど、明確な発音はしっかりとしたエアーの裏付けが大切なことを忘れないように。
 
写真左から石坂浩毅氏、パウル・ハルヴァックス氏、大川香織氏、上森菜未氏、若林毅氏
 
 
レクチャー
 
 マスタークラスの終了後は会場をビュッフェ・クランポン・ジャパン(以降 BCJ)の2階サロンに移し、「ウィーン国立歌劇場の伝統を受け継ぐオーケストラテューバ」と題してのレクチャーが行われました。
 
 ウィーン国立歌劇場及びウィーンフィルと関わってきた大作曲家や指揮者についての濃厚なお話から始まり、〈メルトン・マイネル・ウェストン〉の楽器になると会場の熱気は頂点に。
 
 PHの持参したもうひとつのテューバの“195 Fafner”(こちらも特別仕様てんこ盛りの楽器)についての秘話や、新しいモデルである“97”についてなど。
 
 「“97”を手に入れてから、表現の幅、仕事の自由度が格段に上がりました。この間はブルックナーの4番をF管に持ち替える事なく演奏しました。ロシアものの交響曲やバレエでもとても合います。大きなBb管の難しかったところが解決されます。かと言って、存在感が弱くなってしまことが全く無い。“195”と併用することによって、今まで以上に色々なことが合理的にこなせるようになりました。」
 
写真左から石坂浩毅氏、パウル・ハルヴァックス氏
 
 レクチャーの最後は彼の持参の“195”とビュッフェ・クランポン・ジャパンのテューバショールームにある“97”を交互に使用しての実演!
たくさんオーケストラのパートを、ブルックナーの作品を中心にデモ演奏して下さりました。
 
 コンサートホールの客席やCDなどでPHの音を聴くことは誰でも可能ですが、間近での彼の音を聴くことができたのは、当日この場に集ったみなさんだけの特典!
 
 私も含め、ウィーンフィルのテューバ奏者の「間近の」音を聴くことが出来たのは大変大きな収穫でした。
 
 日本ツアーの本番の合間、ソロからマスタークラス、レクチャーのハードスケジュールにも関わらずのPHの献身的なサービス精神、そして超多忙なオケのフロントトップを張っているタフネスさに大変感銘を受けました。
 
 レクチャー終了後にはレセプションが行われ、多くの参加者がPHと直接お話をしたり、写真を撮ったり出来る時間が設けられました。BCJの粋な計らいに、いちテューバ愛好家として感謝の気持ちでいっぱいです。
 
レセプションでの記念撮影
 
東京フィルハーモニー交響楽団のテューバ奏者の大塚哲也氏(左、本記事の執筆者)、荻野普氏(右)とともに。テューバ奏者が2名在籍し、劇場オーケストラとシンフォニーオーケストラの2つの顔を持つ団体に所属している者同士、話が弾んだ。
 
(以上)
 

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