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Thomas Leleu Interview 2019

もし皆さんがテューバ 奏者に対して「アンサンブルにおける縁の下の力持ち」といった認識をお持ちであれば、トマ・ルルーの活動を知ることでそれを一掃できるだろう。縦横無尽ともいえる活動やレパートリーは、新しいテューバ奏者像を提示してくれるものだ。そしてその活動は、自らが開発に携わった楽器“FRENCH TOUCH”があってこそ。ルルー氏に自らの音楽観や楽器の魅力などをうかがった。(2019年7月・東京にて)

 

“FRENCH TOUCH”は私の理想を現実化した楽器です

  今回(2019年7月)の来日でもコンサートなどをされましたが、最初に来日したのはいつでしたか。
ルルー(敬称略) たしか2007年だったと記憶しています。ちょうどマルセイユ歌劇場管弦楽団に入団した頃でしたが、フランス国立放送フィルハーモニーのツアーに同行しましたので、オーケストラの一員としてでした。しかし翌年にはソリストとして再来日し、そのあとは少し間が空いて2017年になりますね。日本に呼んでいただけるのは本当にうれしいです。出会う音楽家や学生たちはみんな音楽を大切に思っていて、互いにリスペクトし合える関係になれます。もちろんほかにも、自分にとって素晴らしいことはたくさんありますよ。何よりスシをはじめとする日本食は魅力的ですから。

  日本の吹奏楽団やオーケストラとの共演はありますか。
ルルー 残念ながらまだありません。ぜひ一緒に音楽を作りたいと切望しています。いろいろなコンサートを聴きましたが、特に東京佼成ウインドオーケストラや、ミンコフスキが指揮をしているオーケストラ・アンサンブル金沢は、衝撃的と言えるほど素晴らしい演奏でした。私は訪れた国や街ならではの音楽が創造できると信じていますから、日本の作曲家や演奏家の皆さんともご一緒したいと思っていますし、マスタークラスなどで若い世代の才能豊かな音楽家に出会えることも喜びです。

  演奏されている楽器はメルトン・マイネル・ウェストン製の““2250TL FRENCH TOUCH””ですが、これはルルーさんが開発に携わって完成したモデルです。どういった特徴をもつ楽器でしょうか。
ルルー  自分が理想としている音を現実化した楽器であり、同時に実に多彩で広範囲なテューバ奏者の活動をサポートしてくれる楽器です。つまり、私自身があまりにもさまざまな活動をしていますから、どのような形態のアンサンブルや音楽でも素晴らしい演奏ができるようにと開発したわけです。テューバはこれまでにも多くのモデルが開発されましたが、一台でどのようなタイプの音楽を吹きこなせるかといいますと、それはなかなか難しいといえるでしょう。しかし“FRENCH TOUCH”はオーケストラであっても室内楽であっても、クラシックではないジャンルの音楽を演奏する際でも、すべてをカバーできます。

  ルルーさんの活動についてうかがいますが、現在はマルセイユ歌劇場管弦楽団の楽員として演奏されていながら、他にはどういった活動をされているのでしょうか。
ルルー マルセイユ歌劇場管弦楽団には19歳の時に入団し、10年間演奏してきましたが、現在は契約によって籍を置いていながらも自由に活動をしています。いずれ、オーケストラに戻るか辞めるかの決断をしなければなりません。しかし自分はソリストとして活動しようと心に決めています。現在はソリストとして各地のオーケストラに呼んでいただき、コンチェルトなどを演奏する活動があり、他にもいくつかのアンサンブルやグループなどで活動しています。テューバとチェロのデュオや、テューバと弦楽五重奏、テューバ+ピアノ+ヴィブラフォンのトリオも。さらに「ザ・テューバズ・トリップ」というグループでは、ジャズやラテン音楽などを含む多彩なジャンルの音楽を演奏しています。

  たしかにバラエティに富んだ活動ですね。“FRENCH TOUCH”はそのすべてをカバーできる楽器なのだと思いますが、もっとも注目すべき楽器の特徴はどこにあるでしょうか。
ルルー 機能性が優れていることも大事ですが、いろいろな音楽に対応できる音の色彩が大きなポイントでしょう。繊細でエレガントな音ゆえに“FRENCH TOUCH”という名前がふさわしいと思いますし、それこそが私自身の個性でもあります。一方で、遠くまで届くダイナミックな音も理想的なレベルであることや、演奏者の意志に対して反応が良く、音程などの正確さを失わないこともこの楽器の素晴らしいところです。テューバに対する、あまり良いとは言えない認識のひとつに「音が太っていて、音程については正確さを伴わず、ボーンと重く響くだけのもの」というものがありますけれど、“FRENCH TOUCH”はそれを払拭した現代的な音なのです。テューバを再発見してもらえる楽器、とでも言いましょうか。このモデルが発売されたとき、素晴らしい輝きをもつ芸術的な宝石を手に入れたような気にさえなりました。“FRENCH TOUCH”というネーミングも、広告のキャッチコピーも私がアイデアを出したのです。〈メルトン・マイネル・ウェストン〉の素晴らしい技術者のおかげで、自分の理想とする響きを現実にしたのですから、音楽家としてこんなに幸せなことはありません。技術者と互いに納得いくまでディスカッションを重ね、細かなオーダーを最高の形にしてくれたからこそ生まれた楽器なのです。

 

テューバの時代がそこまで来ているよ!と言いたい

  お父様がやはりテューバ奏者として活躍され、ルルーさんにとっては最初の先生でしたね。
ルルー 当時はリール歌劇場に在籍しており、今では現役を退きましたが音楽院で後進の指導にあたっています。親が先生になると子どもにとってはつらいことも多いかもしれませんが、私にとっては最高の先生でした。今でも的確なアドバイスをくれますし、私からも意見を求めます。そういえば私が使っているヴォーン・ウィリアムズのバステューバ協奏曲の楽譜は、父が若い頃に使っていたものです。その最初のページには、父からのメッセージが書かれているのですけれど「この曲を演奏するときには、必ずお父さんの、そしてお父さんのお母さん(=祖母)の誇りを思い出しながら吹きます」と、なぜか一人称のスタイルで書かれているのです。おかしいですよね。でも毎回、気が引き締まります。

  幅広い活動をされている中、ご自身のグループである「ザ・テューバズトリップ」は音楽のジャンルを超越したさまざまな曲を演奏し、ルルーさんの考えるテューバのソリスト像を実現しているように思えます。
ルルー 「ザ・テューバズトリップ」は私を含めた6人の演奏家から成るグループですが、音楽家だけではなくシルク・ドゥ・ソレイユやディズニーランドのショーなども手掛けている演出家も共に活動しています。1時間40分ほどのコンサートで約80曲をメドレーにして演奏し、ステージは場面転換もしますので、コンサートがひとつのショーのように展開していくのです。演奏する曲もクラシック、ジャズ、サンバやボサノヴァなど種々のラテン音楽、アフリカやアラブなどの民族音楽、モータウン・レーベルのソウル・ミュージックもありますね。公演地の民俗楽器も取り入れますから、日本でコンサートができれば伝統楽器とのコラボレーションをしたいです。まさに「クロスオーバー」という言葉そのものであり、自分らしいプロジェクトなのです。最新のCD『ストーリーズ(Stories…)』(トマ・ルルー・トリオ)でもそうした世界に触れていただけます。自作も4曲ほど収録していますし、妻との出会いをモチーフにした「Halton Road」という曲では、テューバだけでなく歌も歌っていますから。

  多くの人が抱いているテューバ奏者の印象を大きく変えるものでしょうし、新しいテューバの伝統を開拓する活動だとも言えそうです。
ルルー テューバという楽器だったから幸運だったのかもしれませんが、もし自分がヴァイオリニストであっても、やはり自由な精神は発揮していたでしょうね。メンデルスゾーンの協奏曲を弾いた翌日には、別のステージでパンク・ロックのような曲を弾いていたり。もちろんクラシック音楽のレパートリーをないがしろにすることはありません。テューバには多くの協奏曲やソナタなどがありますし、リシャール・ガリアーノをはじめとする多くの作曲家が私のために曲を書いてくれています。2019年の6月にはコソボ・フィルハーモニー管弦楽団に客演し、ヴォーン・ウィリアムズの協奏曲を演奏しましたが、なんとその地での初演でした。自分の演奏が曲やテューバという楽器の評価を決めてしまうのかと思うと、喜びと共に重大な責任も感じてしまいます。テューバに対する固定観念を払拭するのと同時に、「またテューバを聴きたい」「他にはどういう曲があるんだろう」と、興味を持っていただくような演奏をしなければなりません。

  そうした音楽を演奏する中で、これまでにはない音や奏法などが必要になったり、創造する余地が生まれることもあると思えますが、いかがでしょうか。
ルルー まったくその通りで、美しく優雅な音色だけではカバーしきれないことがたくさんあります。たとえばギターやベースなどで多用されるタッピングやスラップといった演奏テクニック(弦と指板を叩いて音を出す打楽器的な奏法)をテューバで試してみました。一度マスターしてしまうと、今度はその奏法をクラシックの作曲家が書いた作品にも応用できないか、自分のために書いてくれる新作に組み入れられないかと、いろいろなアイデアが浮かびます。それがテューバの可能性を広げることになるのはいうまでもありません。

  マスタークラスを受講する学生やアマチュア奏者など、テューバ奏者の層は広いと思いますが、ルルーさんが伝えたいのはどういったことでしょうか。
ルルー 世界中のテューバ奏者や学生たちに向けて「テューバの時代が、ほら、もうそこまで来ているんだ!」と、声を大にして言いたいですね。自分が本当にやりたいこと、挑戦したいことを自由にでき、たくさんの聴衆に喜んでもらえることこそが音楽家としての喜びだと思います。決して上から目線で聴衆に「これ、どう?」と提示してはいけません。私自身は少年時代から好きだった音楽を、今こうして自分のレパートリーに取り入れながら活動しています。ですから皆さんも、クラシック音楽をベースとした基礎的な勉強をしっかりすることは必要ですが、ひとつの世界に籠もることなく「自分の好きな音楽は何だろう」「自分だけにできることは何だろう」と積極的に挑戦し、自分だけのオリジナルなテューバの世界を追求していただきたいのです。

  ルルーさんの次回の日本公演を、楽しみにしています。

※ ルルー氏が使用している楽器の紹介ページは以下をご覧ください。
  “2250TL FRENCH TOUCH”

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